聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 翻訳論、比較文学、異文化コミュニケーション |
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著書 | : | 『石川淳と戦後日本(日文研叢書)』(第二部八章 担当執筆)(共著)ミネルヴァ書房 |
『パリ20区 僕たちのクラス』
監督:ローラン・カンテ
フランスの国語教師が、さまざまなバックグラウンドを持つ中学生たちに、生きる上での大切なことを親身になって伝えるプロセスが、見応えのある映画です。
『わかりあえないことから─コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書)
著者:平田オリザ
出版社:講談社
コミュニケーション能力が低いといわれる日本の若者に対し、著者は劇作家としての切り口からその方法を説いています。
『二十歳の火影』(講談社文庫)
著者:宮本輝
出版社:講談社
本書はエッセイ集で、特に『途中下車』という受験生の頃の思い出を描いた一編が気に入っています。宮本輝は、三島由紀夫や谷崎潤一郎と並んで、フランス語訳版でも愛読していた小説家です。
先生が第二部を執筆した『石川淳と戦後日本(日文研叢書)』ミネルヴァ書房
スティーブ・コルベイユ先生は自国でフランス文学を研究していたが、日本文化好きが高じて、日本語を学ぶに至った。フランス語訳で日本文学を読みあさるうちに、日本文学に描かれた価値観や思想、感覚に自分の気持ちにフィットするものを感じていたという。
「翻訳というのは、原語の小説を完全には再現しえないものです。フランス語訳で読んだ日本文学を、日本語で読んだら同じ気持ちになるか試し、比較してみたいと思いました。結果、それぞれの良さがあると感じています。この経験から、翻訳論を追究することになりました。」
コルベイユ先生いわく、翻訳家の活動は「文化の架け橋」である。翻訳の作業は一方の社会から他方の社会への紹介となり、文化交流の重要な役割を担っているという。
「『翻訳』は、英語では『translation』で、ここにはもう少し幅広い意味があります。言語間の翻訳がなされるとき、そこには異文化というものの翻訳がされています。例えば日本にしかないものや文化、感覚をフランス語に翻訳するとき、翻訳者は何らかの解釈や置き換えを行うことになるからです。それから、日本文学を映画など別のメディアで表現することも一種の翻訳だと考えています。」
コルベイユ先生が聖心女子大学で担当している講義は多岐にわたるが、どの授業でも、「異文化交流」「文化の相互理解」といった切り口が含まれており、そこには先生自身が「文化の架け橋」であろうとする姿勢が見てとれる。
「例えば『フランス語コミュニケーション』は中級・上級向けのフランス語会話の授業ですが、語学を習得しながらフランスの文化をよく理解できることを狙いとしています。フランスと一口にいっても、地域によって文化も歴史も違うことを知ってほしい。それが、フランス文学や映画の鑑賞や、コミュニケーションをするときに活かされるためです。」
フランス文化を知ることで、おのずと自国の文化も考えるようになる。また、広く外国の人と話すときに気をつけなければいけないことにも気付くようになる、そうしたメリットもあるそうだ。
先生が原著の翻訳を手がけた戯曲『グリム童話 本物のフィアンセ』(作:オリヴィエ・ピィ)の公演についての寄稿文。フランスと日本、相互の文化の紹介に力を入れている。
日本の学生がフランス語を学ぶのは、かつては食文化やファッションなどの興味を入口とするケースが多かったという。
「ですが、聖心女子大学では、将来、国際的な仕事に就くためにフランス語の必要性を感じている学生が少なくありません。国際的なボランティア活動、移民問題や難民問題に興味を持っている学生が多いと感じます。」
フランス語は国連の共通言語でもあり、JICA(独立行政法人国際協力機構)のような団体を志望する場合、アフリカのフランス語圏の国で働く可能性は大いにある。
「聖心女子大学はグローバル人材の育成にたいへん力を入れています。長期留学や語学研修の制度もありますし、フランス人留学生もいるので、在学中に異文化コミュニケーションをする機会に恵まれているといえるでしょう。」
少人数制教育のため、教員と生徒の距離が近いのも聖心女子大学の大きな特徴だ。コルベイユ先生の研究室にも、フランス語会話の練習や質問のため、日々、学生たちが気軽に訪れる。
「私に限らず、教員はいつでも学生のために時間を作って、個々の目標を達成するための方法を一緒に考えようとしています。机上の勉強だけではなく、さまざまな体験、コミュニケーションをしながら、それぞれの目指す分野について知識を深めることができる場所だと思います。」